探究人間のいろいろ。

人文学 哲学 言語学 教育学 

Active listener への期待。

こんにちは。

 

ある人から借りていた鷲田清一氏の『「聴く」ことの力』を読んだ。

 

「聴く」ことの力

「聴く」ことの力

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鷲田清一という人物を知らなかったのだが、調べてみると現代現象学倫理学を専門とした人物だ。確かにこの著書の中でもメルロポンティ、ニーチェなど現代思想家から引用がある。

 

さて、この本では人間同士でおこなわれる「聴く」という営みを現代思想を基に日常生活の場面レベルで分析し、考察を述べている。「聴く」ということには、話をする他者がいて、他者と場を共有し、心の調子を合わせて行われているなどなど、、、複数要素から成り立つ行為だ。

 

話しているけど、相手に伝わっていない。相手の話が頭に入ってこないが相手はしゃべりつづける。お互いに話にくい。なんてことは誰しもあるだろう。

逆に、あの人には無限に話してしまう。なんだかあの人は話しやすい。あいつとは居心地がいいな。と思うこともあるだろう。

 

そんな誰しもが日常生活で経験しているコミュニケーションのコアをこの本を通じて読み取ることができる。個人的には3章の沈黙に関する記述が大変興味深い。

沈黙の時間感覚や意味感覚を他者と共有できたら、きっと心地よいテンポの会話が生み出されるのだろうとふと思った。

 

そして、余談だが、古本で読んだり人から(学術的な)本を借りて読んだりすることの良さは、「書き込み」があることだと思う。エクリチュールというかテクストという独立していて無機質な言語を媒介に誰かと並走しながら、もしくは会話をしながら読み進めていく感覚はなんだか少し心地よい。

 

話し方いろいろ、聴き方いろいろということで。

 

特別支援メモ(おそらくすぐ非公開にする)

児童逆境体験(Adverse Childhood Experience:ACE)

→虐待およびネグレクト

 

Toxic three: 養育者の家庭内暴力、物質使用障害、メンタルヘルスの問題

 

DOHaD (Development Origins of Health and Disease)仮説

 ライフコースでの健康や疾患へのかかりやすさは胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定されるという仮説

 妊娠初期の不安症状と妊娠中期の抑うつ症状と子の4歳および13歳時の不注意・衝動性・不安・抑うつ症状との関連が示されている。

 媒介要因:母親の子宮内コルチゾール濃度と子どもの17か月の血中コルチゾール濃度に有意差が見られる。

 

遺伝子-エピジェネティクス-環境因の相互作用

 

ミラーニューロン:動作の反復などの練習や学習によらず、他者に同調した模倣のような動きができる

 

自閉症と診断された乳児と養育者との関係:子は親の顔を見ない。親は頻繁に子の顔に触れる。父親の干渉して母子のコミュニケーションを促そうとする傾向。子どもの特性に親が無意識的に行動を合わせる。

 

Bet-hedging :将来の多様な生存-生殖の環境への適応に備えて、親の養育行動-養育環境に対するこどもの感受性も多様性が担保されているというリスクヘッジの視点

=子どもの可塑性?

 

脆弱性モデル:ストレスに耐えられない

差感受性の概念モデル:肯定的な環境における増強効果まで含む

 

 

アタッチメント:ピエール・ジャネ、子どもと特定の母性的人物(親や養育者)との間に形成される強い結びつき(絆)のこと

 

アタッチメント理論:ジョン・ボウルヴィ、アタッチメントは人間の赤子が生き延びるために必要不可欠なものであるという理論

 

安全と探索:安全基地的な親の存在があるからこそ冒険できる

 

アタッチメントの型(3+1) エインズワース 論争あり

安定型:母親がそばにいると落ち着き、離れると不安を示す

回避型:実際は不安感を感じているが母親が離れていっても行動には不安感を表さない。母親が戻ってきても無関心を装う。

 

抵抗型:母親が出ていくと過度に動揺、母親が戻ってきても落ち着かない。

 

混乱型:マルトリートメントを経験した60~80%、近接と回避が逆になる。

 

刈り込み(pruning):脳の働きを効率化させるために必要なシナプスの結びつきを教科し、不要なシナプスは削除し効率化していく。

 ニューロン周辺、グリア細胞取り巻いており、髄鞘形成、神経細胞を包み込み保護する。グリア細胞により髄鞘形成なされる。混線を防ぎ、効率的に刺激を伝達

 

反応性愛着障害:対人関係のなかで、適切な反応をすることができない

脱抑制型対人交流障害:他人に対してのアタッチメントはあるが、特定の相手に対してアタッチメントを示す能力が著しく欠如している。

 

 

発話:自分の思考や欲求を音声メッセージとして表現する一連の心的過程。

①表現したい前言語的な語彙選択

②選択された語彙に対応する音韻情報の検索、音声の符号化

③音声を実現するための運動プログラムを生成

④調音器官の運動によって音声化

※④の段階で音声化が選択的な障害が生じて発話が妨げられるのが発達性吃音

運動性言語野(ブローカー野)を中心として、運動前野や一次運動野が重要な機能を果たすと考えられている。

 

聴覚野:自分の声を聴覚フィードバックを受ける以外に、運動中枢から送信され、発話運動にともなう感覚を予測する遠心性コピーの入力を受けると考えられている。感覚予測信号と聴覚フィードバックを聴覚野周辺領域において比較・統合することによって、発話運動をモニタリングし、必要であれば修正をおこなう。

 

発達性吃音:幼児期に観察される。特定の音の繰り返し、伸発、難発を中核症状とする。

有病率:幼児期4% 児童機(10歳まで)1.4%、成人期1%以下

発話運動関連領域の機能不全の可能性が高いとされる。

脳活動の特徴:①運動関連領域(一次運動野、補足運動野、帯状回、小脳)の過活性

       ②両側聴覚野の活動低下

語頭に症状が発現が集中する。

発話運動システム、音韻情報を司る受容性言語システム、皮質下領域の機能変容を考える必要あり。

 

正常な発話運動プログラムの生成:運動関連領域と言語音の情報を保持する側頭葉にアクセスする必要がある。

発達性ディスレクシア:読み書きの習得に選択的な問題がある。しかし一般的な知能や推論、論理などの知的技能の習得には問題がない。

 

ディスレクシア罹患率:文字の種類や個別言語によって大きく左右される。書記素(音素変換における規則性の程度)が影響する。

 

文字の認識、読み書きに関わる心理学的プロセスと脳内基盤

①文字が視覚的に提示される

②文字を構成する線分など低次の視覚的特徴が一次視覚野、高次視覚野で抽出・結合

③ある脳領域で、それが何のもじであるか同定・認識される

言語によって読みに関わる重要な脳領域は異なる。

 

日本語失読症児童:左上側頭回の活性不全が観察された。左上側頭回は音韻情報処理に重要な領域であり、音韻意識など言語音の脳内表象の変容が日本語のディスレクシアの機序において鍵となる可能性を示唆

 

特異的言語発達障害(Specific Language Impairment):知覚・社会機能・認知機能一般は正常であるが「聞く・話す」といった音声を介した言語の獲得に選択的な遅れがみられる。文法的形態素(動詞屈折など)の省略、名詞と動詞などの内容語だけで構成される。

 

ASD児童の中で受容・表出性の言語機能が良好な児童は音声刺激に対する上測頭回周辺の脳活動のパターンが定型発達とよく類似するが、言語機能が不良な児童は、上側頭回周辺の脳活動のレベルが低い。

 

発話内容と発話者の年齢、性別の一致性を操作し、これらの音声を思春期のASD者に聞かせたときの脳活動のようす

→定型発達よりも左半球の下前頭回の活動が低下している。

左前頭回:ブローカ野に相当する領域で、統語処理や音韻処理など中核的な言語処理との関連が知られている。

ブローカ野:常識と話者の属性情報など、パラ言語情報の統合に深く関与している。

ASD者:左前頭回の統合に障害がある可能性が示唆

 

 

ASD社会性の障害の神経学的基盤として注目される偏桃体:

視覚や聴覚をはじめとする全感覚モダリティの入力を受け、広範な脳部位に出力

中心核、内側核、皮質核における細胞密度の増大と細胞サイズの低下。海馬も同様

海馬に存ずる錐体細胞樹状突起の分枝が未発達である。

偏桃体と情動、共同注意、社会的行動の密接な関係が確実視

 

ADHDの神経基盤:左尾状核、右前頭葉前方上部、両半球の前方後部、両側の前頂後頭部に有意な体積減少がみられる。一方で両側頭葉の後方部と両側頭頂葉の下方部における皮質体積は顕著に増大。以上のことから、前頭前野へ広範に投射する側坐核ドパミン神経を介する)および青斑核(ノルアドレナリン神経を介する)からの神経回路の機能低下がADHDの神経基盤の候補である。(=報酬の受け取りをしばらく待てること、長い時間注意を維持できること、段取りを組めることを担う脳部位の機能的成熟の遅れがある)

 

情報処理システム:感覚器からの情報が視床を経由して偏桃体に転送される情動処理腹側経路と大脳皮質を経由する認知処理背側経路の二重のシステム構造

 

前頭葉:情動処理と認知処理が相互作用を行う脳領域

 

必要な情報を適切に選び、一次的に保持しつつ、不必要になったら消去するいった一連の情報処理過程が前頭葉機能、特に認知・行動の時間的統合化にかかわっているという説

→時間知覚が発達し、過去将来そして現在ある自己認識が形成され、自己の実現と他者との関わりに必要なソーシャルスキルといったものが備わってくる

 

言語性作業:言語の内在化によって、言語を用いて思考し、行動を制御できる能力

 

前頭前野:行動抑制→ワーキングメモリ→実行機能

実行機能:将来の目的に向けて判断、計画、行動するためのオペレーション機能のこと。外の世界を自分の世界(脳)に取り込み、目的指向的行動(行為)ができる能力である。

 

情動の生理学的側面:外部環境や体内変化などの感覚入力に対する記憶、経験との照合により数秒単位で出現する生物学的価値判断、適応行動への動機づけを発生させる。

 

 

習癖:無意識的に繰り返すことで身につき固定化してしまった行動

 

抜毛症:体毛を抜くことを減らしたりやめたりしようとしているにもかかわらず、体毛を抜くことを繰り返して体毛を喪失してしまい、苦痛や機能の障害を生じている。

海馬傍回と小脳の白質体積がおおきかった→行動抑制の低下につながる皮質-小脳連携の障害を引き起こす可能性がある。

 

皮膚むしり症:皮膚むしり行為を減らしたりやめたりしようとしているにもかかわらず、皮膚むしり行為を繰り返して皮膚の損傷を引き起こし、苦痛や機能の障害を生じている。

 

ハビットリハーサル

①気づきのトレーニング:抜毛や皮膚むしりなどの行動をしようとしていることに気づく

②拮抗反応:抜毛や皮膚むしり行動とは同時にできず、最小限の努力でできる目立たない行動をする。

③ソーシャルサポート:拮抗反応を行うことを周囲がサポートする。

生まれてきた瞬間の私

母親から聞いた話だ。

 

私を身籠っていた母は悪阻に悩まされていた。

 

その悪阻の症状は長時間の睡眠だったそうだ。それが一体どのぐらいのものだったのかは不明だが私が生まれてくる直前まで母はとにかく毎日眠かったらしい。

 

そして陣痛が来て、私がこの世に生まれようとしていた。

 

その時の出来事である。

 

母親の胎内に未練を残していたからだろうか、それともその時からこの世に対しての絶望があったからか、なんと私は出産途中で疲れて眠ろうとしていた。周りは慌てていて、助産師が生まれかけ私の顔を軽く叩きながら「起きてー」と声をかけくれていたらしい。(当然そんな記憶が今の私に残っているはずはない)

 

その時から母親は私の性格を悟ったらしい。

今現在の私も現実世界になじめないまま不器用な大人になってしまった。

 

この話の真偽は不明だが、そんな自分のルーツがなんだか自分って感じだ。

雑記、そして近況報告。

こんにちは。

 

少しだけ、近況報告を。。。

 

まず、最近(といってもほぼひと月前の話だが)、ついに念願のウィトゲンシュタイン全集を購入した。全10巻で大修館から出版されている。1年間ぐらい買おうか買うまいか迷っていたが勢いで買ってしまった。ゆっくりと読むしかないからとりあえず、第一巻から読み進めている。第一巻はラッセルによる論理哲学論考解説、論理哲学論考の本文と草稿、別冊でウィトゲンシュタインの年譜があり、オタクにはもってこいの内容となっている。彼の思索の過程を読めるのが面白い。

 

次に、ブログの月間アクセス数が初めて100を超えた。

非常にありがたい。おそらくこのブログを読む人は現実世界で探究人間のことを知っている人が大半だと思うが、このブログ上では、私は違う時間軸を生きる別人格ということでお願いしたい。

そして、もう少し高頻度で記事をポストできるようにしていきたいなと思う。

 

最後に、思っていることを一つだけ書く。

大きな社会的なレベルでみても小さな社会的なレベルでみても、お互いにグラデーションで了解していた事象を取り出し、拡張させ、個人と社会を分断させていくような動きがあるように思う。これは、丁寧に書かないといけないことだと思うから、またいつかじっくりと書くことにする。

 

ではまた。

 

 

全ては無に帰す。

こんにちは。

 

この間、人から借りていた諸隈元の『人生ミスっても自殺しないで、旅』を読んだ。

 

 

筆者は大の言語哲学ウィトゲンシュタインのオタクで今もXでウィトゲンシュタイン関連のことをポストしている人物だ。

 

この本はジャンルで言えば、旅行記のような本だ。

 

ウィトゲンシュタインに取りつかれた筆者があることがきっかけで人生に絶望し、自殺を考えていた。そんな時、筆者はふと、どうせ自殺するなら旅にでよう。行き先はそうだな、、、ウィトゲンシュタインとゆかりのあるヨーロッパに行こう。

ということで、イギリス、アイルランドルーマニアブルガリア、旧ユーゴ」、ウィーン、ドイツを1か月間かけて旅をした際の道中の出来事が独白されている。

 

筆者がウィトゲンシュタインを信仰していたり、いろいろな哲学書からの借用文があったりするため、読みにくい文が多い。しかし、随所に近代哲学の概略的知識やウィトゲンシュタインの小ネタが満載で好きな人は好きな内容だ。

 

ちなみに個人的に好きなエピソードは筆者がひたすらヨーロッパのホテルでバスタブに入浴するべく奮闘する場面だ。結果、全然入れないのだが(笑)。

なぜ筆者がバスタブに浸かりたかったのかもこの本を読めばわかるから、お時間ある人はぜひ読んでいただきたい。

 

決まり文句として「人生は旅だ」とはよく言ったものだが、旅は帰る場所があるから旅になるわけであって。私たちの帰るべき場所は一体どこなんだろうか。

仮定法過去のオーラルイントロダクション指導例

4年前に作成した遺物が発見されたため、ここに残しておく。

これは、英語教育における仮定法過去のオーラルイントロダクション(口頭導入)での指導例だ。

 

 

 

T: Hello, everyone. Look at this picture. This is a bird. What the bird can do?(①の写真を提示)

S: He or she can fly.

T: That’s right! The bird can fly. I want to fly like the bird in the sky but it is impossible. If I were the bird, I would fly in the sky.(②の写真提示) Repeat after me. If I were the bird, I would fly in the sky. If I were the bird, I would fly in the sky.(太字部分を強調して読む)

 

 

 

 

T: Next, look at this picture. What is this?(③の写真を提示)

S: Money

T: Yes, it is. This is a lot of money. I want to buy this car, but I do not have enough money. If I had enough money, I would buy the car.(④の写真提示) Repeat after me. If I had enough money, I would buy the car. If I had enough money, I would buy the car. (太字部分を強調して読む)

 

 

 

T: Now I want to ask you a question. Actually you do not have a lot of money now. If you had a lot of money, what would you do? (太字部分を強調して読む)(⑤の写真提示)

S: 宇宙旅行

T: That sounds great! You want to travel to space. If I had a lot of money, I would travel  to space. Repeat after me. If I had a lot of money, I would travel to space. If I had a lot of money, I would travel to space. (太字部分を強調して読む)

T: Let’s check today’s key sentences.

(色分けして板書する、キーセンテンスを2回ずつ音読する)

If I were the bird, I would fly in the sky.

If I had enough money, I would buy the car.

If I had a lot of money, I would travel to space.

 

(日本語説明)

形:If 主語 動詞の過去形, 主語 would 動詞の原形

             Be動詞の時注意

意味:もし(今)~なら、~だろうに

機能:現在の事実に反する仮定を表す

これを仮定法過去と呼ぶ

「あしながおじさん」における新しい読み方の提案 ジャーヴィーのジェル―シャに対するアプローチの分析、考察から

 遥か昔に大学の課題としておこなった、「あしながおじさん」に関する新しい読み方について書いたものが発見された。思い出としてここに残しておく。

 ※かなり長くなる(笑)

以下本題

ーーーー

 本稿の目的はジーンウェブスター作「あしながおじさん」(原題:Daddy Long-legs)における第三者的視点からのリーディング方法を提案し本作品の内容理解、解釈に新たな一提案を示すものとする。あしながおじさん(=ジャーヴィー)の行動が垣間見える箇所を引用し彼の言動の意図を考察する。最後に、主人公のジェル―シャ・アーボットがあしながおじさんに対して一方的に手紙を送り続けた内容を読むことに加え、文章には書かれていない内容を引用文を基に考察し新しい「あしながおじさん」という文学作品の読み方の提案を行う。

 

あらすじ

物語の冒頭、主人公ジェル―シャ・アボットが書いた「ゆううつな水曜日」から始まる。そこには孤児院にて97人の後輩孤児の面倒を見るジェルーシャの孤児院のために働くあわただしい生活や勉学をする暇もない様子が描かれる。

 そこに突然現れた評議員がジェル―シャに対し、彼女の高校での成績、非凡な文学の才能を見出し大学に進学する援助をしたいと申し出た。彼はどうやら大変なお金持ちで、以前にも何人かの孤児院出身者にこのようなことをしていた。しかし、支援したのは今まで男児のみで女児を支援するのは初めてのことである。事細かな計画を孤児院の院長に提案した。院長からその提案を受けたジェル―シャは困惑するがこの孤児院から抜け出し、新たな生活を送ること決心する。毎月、お小遣いが彼の秘書を通じてジェル―シャに送られるのだがそこには一つ条件があった。それは彼に毎月手紙を出すこと。そこに何を勉強したのか、大学生活の様子などを書くようにというものであった。

 これ以降物語はジェル―シャが彼に宛てた手紙を読むという形で展開されていく。最初は彼のことを奇妙に思いながらも以後、自身の名前をジュディと変えたり、彼を「あしながおじさん」と呼び、彼に対して大学生活の様子を生き生きと手紙で語る。

 ジェル―シャはどんな姿をしているかわからない「あしながおじさん」という人物に思いを巡らせながら手紙を書き続ける。本書は一人の少女の少し遅い青春を追うことが出来る。

 

注釈

※本稿ではあしながおじさんを「ジャーヴィー」と呼称を統一する。また、ジェル―シャ・アーボットを「ジェル―シャ」と呼称を統一する。

 

ジャーヴィーの言動、人物像

時間軸

引用ページ

引用文(一部抜粋)

事実として認識できること

入学前~一年次

P45

 

 

 

 

P66

 

 

 

 

 

 

P69

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P80

 

 

 

 

P84-87

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P93-97

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P98―103

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十月十九日 

「おじさんはあたしの質問に全然答えてくださいませんでしたけど、…」

 

三月二十六日 

「おじさまはあたしの質問に答えてくださいません。…あたしは、おじさまのことを何ひとつ知りません。名前すら知らないのです。…」

 

病院にて 四月四日 

「…看護婦さんがあらわれて、あたし宛ての白い大きな細長い箱を持ってきてくれました。すばらしく美しいピンクのつぼみのバラがいっぱい入っていました。もっとすてきだったのは、そこにとてもていねいなメッセージが書いてあって…」

 

五月二十七日 

「おじさんは、ほんとうにすてきな方です!農場のこと、たいへんうれしく思います。…」

 

五月三十日 

「…あたしは、男の人と歩きまわり、おしゃべりし、お茶を飲みました。…その方は、ジュリアの一族の、ジャーヴィス・ペンドルトンという方です。手短にいえば、ジュリアのおじさまです。…(そう、足長といえば、おじさんと同じくらい、背の高い方なんですよ。)…その方はジュリアのお父さんの一番下の弟さんなんですけど、ジュリアはあまりよく知らないみたいです。どうも、ジュリアが赤ちゃんのときにちらっと見て、気にくわない子だと思い、それ以来ジュリアのことには目をとめなかったようです。…本当に人間らしい方―ちっともペンドルトンらしくない人です。…その方は、背が高く、やせ型で、浅黒い顔にしわがいっぱいあります。笑っているのかいないのかよくわからないような、すごく不思議なほほえみが浮かぶと、口もとにほんのちょっとだけしわが寄るんですよ。…その方は大学へもどるとすぐ、汽車にのるためいそがなければならなかったので、ジュリアにはほとんど会えずにおわってしまいました。…今朝(今は月曜日です)、速達でチョコレートが三箱、ジュリアとサリーとあたし宛てに届きました。…」

 

ロックウィロウにて 七月十二日 

「…実は、ここのもとの持ち主はジャーヴィス・ペンドルトンさんで、…そして、一族の中でもいちばんのすばらしい方が、ジャーヴィーぼっちゃまです。―ジュリアは、一族のうちでも格の低いほうに属しているのがわかりました。…」

 

日曜日

「…ペンドルトンさんは、十一歳の頃、病気をしたあとすぐに、ここへきて、夏を過ごしたんだそうです。そのときに『追跡』をおいていってしまったんです。何度も読んだみたいで…冒険好きの元気な男の子で―そのうえ、勇気があって、うそをつかない子だったようです。…」

 

①ジェル―シャの入学後7か月間、一切の手紙の返信をしていない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②ジェル―シャにお見舞いを贈った。初めて直筆のメッセージを送った

 

 

 

 

 

 

 

③夏休みにジェル―シャが孤児院に戻りたくないという手紙を受け、農場で過ごせるように便宜を図った

 

④ジェル―シャと初めて実際に会う

 

 

 

 

⑤ジェル―シャの学校の友人であるジュリアの叔父であることが明らかになる

 

 

 

 

⑥姪のジュリアには興味がないことが明らかになる

 

 

 

 

⑦背が高く、やせ型、浅黒い顔にしわがいっぱいあるという身体的特徴が明らかになる

 

 

 

 

 

 

 

⑧翌日以降にチョコレートを贈る

 

 

 

 

 

⑨ペンドルトン家の出身ということが明らかになる。

 

 

⑩招待した農場はもともとペンドルト家とゆかりのある場所であった

 

 

 

⑪幼少期の病気

 

 

 

 

⑫冒険好きの元気な男の子、勇気があって、うそをつかない子であった

二年次

P113-117

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P117-121

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P131-133

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P134-138

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P154-156

 

 

 

 

 

 

P172-182

マサチューセッツ州ウスター、ストーン・ゲイト荘にて

十二月三十一日 

「もっとまえにお手紙を書いて、クリスマスに送ってくださった小切手のお礼をいうつもりだったんですが、…このあたしの、完璧な、文句なしの、最高の幸福に、たったひとつ残念なことがありました。それは、ジミーマクブライドといっしょに、コチロン(フランスで始まった軽快な社交ダンス)の千乙を切って踊っているあたしを…」

 

土曜日 六時半 

「…ジュリアの素敵なおじさまが、今日の午後、またいらっしゃました―そしてチョコレート二キロ入りの箱を持ってきてくださったんです。…おじさまは、あたしたちの無邪気なおしゃべりが気に入られたみたいで、帰りの汽車の時間を遅らせて、勉強部屋でお茶をめしあがりました。…あたしは面と向かって「ジャーヴィーぼっちゃま」とお呼びしました。でも、ちっともいやな顔をなさいませんでした。ジュリアは、おじさまがこんなにご機嫌がいいのを、はじめてみたといいました。…」

 

三月二十四日もしかして二十五日 

「…ジュリアとサリーとあたしで、今度の金曜日にニューヨークへ行って、春の買い物をし、ひと晩泊まって、次の日に「ジャーヴィーぼっちゃま」と劇場へ行くことになっています。ぼっちゃまが招待してくださったんです。…」

 

四月七日 

「…買い物のあと、あたしたちはレストラン「シェリー」でジャーヴィーぼっちゃまと会いました。…ジャーヴィーぼっちゃまが、あたしたち一人一人に、スミレとスズランをいっぱい、花束にして贈ってくださったんです。…」

 

六月五日 

「…スミス様はあたしがマクブライド夫人の招待をことわって、去年の夏と同じく、ロック・ウィロウ農場へ行くのをお望みです、と書いてありました。…」

 

八月二十五日 

「さあ、おじさん、やっとジャーヴィーぼっちゃまがいらっしゃいました。…もう十日になりますけど、いっこうにお帰りになる気配がないんですもの。…ぼっちゃまは、ほんとうに気さくな方です。…とにかく素朴で、まわりのことにふりまわされず、とってもかわい気のある方なんです…」

水曜日

「…ジャーヴィーぼっちゃまが料理をしたんです。料理はあたしよりうまいとおっしゃいました。…ぼっちゃまはずっと笑ったり、冗談をいったりして、おもしろいことをいっぱい話してくださいました。あたしが読んだ本は全部およみになっているし、他にもたくさんご存知です。ほんとうに、びっくりするくらい、たくさんいろいろなことを知っていらっしゃるんです。…」

 

 

 

⑬クリスマスに小切手を送った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑭直接チョコレートを持ってジェル―シャに接近

 

 

⑮おしゃべりをした

 

 

 

 

 

 

 

⑯姪のジュリアも初めて見るほど機嫌がよかった

 

 

 

 

 

⑰ニューヨークで劇場へ一緒に行くことを約束した

 

 

 

 

 

 

 

 

⑱花束を贈る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⑲ジェル―シャがロック・ウィロウへ再び夏休みに向かうことを望む

 

 

 

 

⑳ロック・ウィロウにて十日以上ジェル―シャと一緒に過ごす

 

 

 

 

 

 

 

 

㉑ジェル―シャに対して料理を振る舞う

㉒ジェル―シャとたくさん話す

三年次

P196-P200

 

 

 

 

 

 

P200-202

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P221-227

 

 

 

 

 

 

十二月七日 

「ジュリアの家への訪問を許してくださって、ありがとうございます―お返事がないのは、巨してくださったことだと思っています。…」

 

十二月二十日 

「…どうしてもおじさんに、贈っていただいたクリスマス・プレゼントのお礼をいいたかったんです。本当にうれしかったです。毛皮とネックレスと有名な「リバティ」のスカーフと手袋とハンカチとハンドブック、とても気に入りました。…このごろやっと、ジョン・グリア孤児院にいつもクリスマス・ツリーと、日曜日のアイスクリームを贈ってくださった評議員さんがどなただったか見当がついてきました。…おじさんはあんなにたくさんいいことをなさっているのですから、きっと幸せになれる方です。…」

 

六月十日 

「…おじさんが、夏、あたしにヨーロッパ旅行をさせてくださるとおっしゃるのは、なんとおやさしく、寛大で、ご親切なことでしょう…」

 

 

㉓ジェル―シャがジュリアの家へ訪問したいという要望に対して返信をしていない

 

 

 

㉔クリスマスプレゼントとして毛布、ネックレス、「リバティ」のスカーフと手袋とハンカチとハンドブックを贈る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

㉕夏休みのヨーロッパ旅行を提案

四年次~

P233-235

 

 

 

 

 

 

 

P242-243

 

 

 

 

 

 

 

P247-248

 

 

 

 

P263-266

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P276-277

 

 

 

 

P279-286

十月三日 

「…ちょっと聞いてください。ジャーヴィーぼっちゃまがロック・ウィロウへ出した手紙がこちらへ転送されてきました。秋にロック・ウィロウへ行かれなくなったという手紙でした。…」

 

十二月二十六日 

「おじさんは、まともな神経の持ち主なんですか?一人の女の子にクリスマス・プレゼントを十七こも贈るなんて、とんでもないってことが、おわかりにならないんですか?」

 

一月十七日 

「きのう、あたしの家族のために送ってくださった小切手が届きました。…」

 

ロック・ウィロウにて

十月三日 

「おじさんが自ら書いてくださった手紙が―それも、とってもふるえた字の!…ご病気だったなんて、心からお見舞い申し上げます。…でも、あたしがもう一人の男の人に対して、さらにもっと特別の気持ちをもっているとお話ししても、お怒りにはならないでしょう?…あたしの手紙にはジャーヴィーぼっちゃまがひっきりなしに登場していましたもの。ぼっちゃまがどんな方なのか、そして、あたしたちがどんなに気があっているか、おじさんにはぜひわかっていただきたいと思います。…あたしよりも十四年も先にこの世に生まれでているんですから。…それなのに、あたしはあの方との結婚をことわってしまたんです。…結局あの方は行ってしまいました。…ジャーヴィーぼっちゃまとあたしは、とてつもなく深い誤解の溝にはまってしまい、おたがいにひどく傷つきました。…あの方は社会主義者ですから、伝統にとらわれない考え方の持ち主です。…これは二か月ほど前のことです。それ以来、あの方からはなんの連絡もありません。…「ジャーヴィーおじさま」がカナダで狩猟をしていて、ひと晩じゅう嵐のなかにいたせいで肺炎にかかり、ずっと具合が悪いのだと。」

 

十月六日 

「ええ、もちろんうかがいます―次の水曜日の午後、四時半に。…」

 

木曜日の朝

「…「お嬢さん、だんな様は重いご病気で、今日初めて、起きるのを許されました。…」…あなたはお笑いになり、手をさしのべて、こうおっしゃいました。「かわいいジュディ、ぼくがあしながおじさんだって、どうしてわからなかったんだい?」…お医者様がこられて帰りをうながされるまでの三十分間の楽しかったこと。…」

 

㉖手紙を返信

 

 

 

 

 

 

㉗17個のクリスマスプレゼントを贈る

 

 

 

 

 

 

 

㉘ジェル―シャが救済を希望した人物に対して金銭面での援助を行う

 

 

 

㉙手紙で自らが病気であることを明かす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

㉚ジェル―シャよりも14歳年齢が上であることが明らかになる

 

㉛2月前にジェル―シャに対して結婚を申し込んだが断られていた

 

 

社会主義者である

 

 

 

 

㉝病名は肺炎、またその原因はカナダでの狩猟中に一晩中嵐の中にいたことによるもの

 

 

 

㉞正体を明かして、ジェル―シャと会う約束をする

 

 

 

㉟具合はあまりよくない

 

 

 

㊱正体を明かす

 

㊲30分間ジェル―シャと話し続ける

 

ジャーヴィーの行動に対する考察

前章のジャーヴィーの言動、人物像における事実として認識できることを根拠にそれぞれ仮説を展開していく。

 

ジェル―シャの我慢強さや学校での様子について見定めている期間なのではないか。

 

ジェル―シャの危機(体調を崩したこと)に対して耐えられない気持ちになったのではないか。

 

ジェル―シャの要望(夏休み孤児院に戻りたくないということ)に応えようとした。加えて自らの育った場所を用意することでジャーヴィー(=自分)に注目を向けようとしたのではないか。

 

④⑤⑥⑦⑧

夏休みの農場での生活にてジャーヴィーという名前が引っ掛かるように人物情報を事前に刷り込んでおこうとしたのではないか。また、実際にジェル―シャに会ってみてどのようにジャーヴィーを描写してくるかを観察しようとしたのではないか。

 

⑨⑩⑪⑫

間接的にジェル―シャがジャーヴィーの情報を自然と探し理解できる様子を確認したかったのではないか。

 

農場の様子やクリスマスに追加の小切手を送りジェル―シャがジャーヴィーに興味を持ち続けていると思っていたが、ジミーマクブライドとダンスを聞いたことによって焦りが生まれたのではないか。

 

⑭⑮⑯

居ても立ってもいられず、直接ジェル―シャに会いに行き、ジャーヴィーから興味が離れないようにし、実際の様子を見るとジェル―シャのジャーヴィーに対する気持ちが離れていないことに安堵したのではないか。

 

⑰⑱

徐々に会うペースを増やしていくことによりジェル―シャへのアプローチを本格化し始めたのではないか。

 

⑲⑳㉑㉒

ジェル―シャとどうしても二人で会う機会を設けようと画策したのではないか。また、他の成人男性に興味が惹かれないように出会いの場を奪おうとしたのではないか。

 

ジェル―シャとの絆が深まったため敢えて何も言わなかったのではないか。

 

念入りなプレゼントは忘れずに行うがこの際に、「あしながおじさん」としてではなくジャーヴィーとしてクリスマスプレゼント送った、つまり人格(キャラクター)が混在しているのではないか。

 

㉕㉖

ジェル―シャがジャーヴィー(=自分)と時間を過ごせるように行ったが少し予想外の動きをされて戸惑っているのではないか。

 

㉗㉘

ジェル―シャが愛おしくて愛おしくてたまらないのではないか。

 

㉙㉚㉛㉜㉝㉞

今までのジェル―シャの行動の意図や気持ちを独白され動揺しながらもやはりジェル―シャはジャーヴィー(=自分)に好意があると確信したのではないか。

 

㉟㊱㊲

正体を明かし、愛の告白が成功する確信をもって実行に移したのではないか。

 

まとめ

 これまでの引用文、事実として認識できるジャーヴィーの行動、それを根拠としたそれぞれの行動の意図の仮説から、この「あしながおじさん」という文学作品をジェル―シャ目線の単なるシンデレラストーリーの児童文学作品として読むことだけではなく、ジャーヴィー目線のいかにして一人の女性を獲得するかという男性目線の話としても読むことが出来るではないか。「あしながおじさん」の文学作品としての特異性は冒頭以降、全て主人公のジェル―シャの手紙を読むという形でストーリーが展開していくため、彼女の周りで同じ時間軸上で何が起こっていたかを把握することが難しいところにある。したがって読者は、ジャーヴィー目線の読み方をすることでジェル―シャの一人称的視点から脱却し、児童文学としての読みから、裕福な貴族がいかにして14歳離れた若い女性を自らの結婚相手にするために画策する物語という新たな観点からの読みが可能となるではないか。

 今後の課題として、ジャーヴィーの具体的行動やそこから考えられるジャーヴィーの心情については他にも手がかりとなる部分が作中にちりばめられている可能性がある。また今回は谷口由美子訳の作品を取り上げたが異なる翻訳者や原文のみで考察をおこな場合に本稿とは異なる解釈が論じられることも考えられるため、引き続き研究を行っていく必要があるだろう。

 

参考文献

ジーン・ウェブスター作 谷口由美子訳 『あしながおじさん』 岩波文庫 2002年

https://www.gutenberg.org/cache/epub/157/pg157.html(閲覧日:2021年5月21日)